
ノビタキ(Saxicola torquatus)|秋の草原で姿を見せる小さな旅人
ノビタキは、スズメほどの大きさの小鳥で、草原や農耕地に現れる姿から「野にいる鶲(ひたき)」という名前がつきました。春と秋の渡りの時期に日本各地で観察でき、秋の季語としても親しまれています。小柄ながら愛らしく、枝や草の先にちょこんととまる姿が特徴的です。
1. 基本情報

- 学名:Saxicola torquatus(Saxicola stejnegeri と分類される場合もある)
- 英名:Stonechat
- 分類:スズメ目 ヒタキ科
- 全長:約13cm
- 分布:ユーラシア大陸で広く繁殖し、日本には夏鳥または旅鳥として渡来
- 生息地:草原、農耕地、湿地の周辺、低木林
季節別の出現状況
季節 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
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ノビタキ | ー | ー | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ー |
2. 外見の特徴

- オス(夏羽)は頭部が黒く、胸がオレンジ色、首に白い帯が入る。
- メスや冬羽のオスは全体に褐色で地味だが、胸に淡い橙色が残る。
- 体は小さく丸みを帯び、尾羽を上下に振る習性がある。
- 草原や低木の先端にとまる姿がよく見られる。
3. 鳴き声
- 地鳴きは「カッ、カッ」と石を叩くような音。
- さえずりは「チュチュリリ、チュチュリリ…」と軽快で短い。
- 春から夏にかけてオスがよくさえずる。
4. 生態と行動
食性
- 主に昆虫を捕食。
- バッタ、甲虫、クモなどを地上や草の上で捕らえる。
- 秋には果実や種子を食べることもある。
習性
- 草原や農耕地で杭や草の上にとまり、周囲を見渡して餌を探す。
- 獲物を見つけると地面に降りて捕らえ、再びとまる動作を繰り返す。
- 渡りの時期には群れを作って行動することもある。
5. 繁殖
- 繁殖期は春から夏。
- 巣は草の根元や低木の茂みに作られる。
- 1回に4〜6個の卵を産み、メスが抱卵する。
- オスは縄張りを守り、メスやヒナに餌を運ぶ。
6. 日本での観察状況
- 春と秋の渡り期に日本全国で観察できる。
- 北海道や本州の高原では夏鳥として繁殖。
- 冬は東南アジアへ渡るが、西日本の一部では越冬する個体もいる。
7. 類似種との違い
種類 | 主な違い |
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コホオアカ | 草原に生息するが、体はやや小さく、頭に縞模様。 |
シマノビタキ | ノビタキに似るが、眉斑が明瞭で南方系。 |
ジョウビタキ | 翼に白斑があり、オレンジ色が鮮やか。 |
ノビタキ | 草原に多く、尾を振り、オスは黒頭と橙胸が特徴。 |
8. 文化との関わり
- 「野鶲(のびたき)」として、秋の季語に用いられる。
- 日本の里山や草原の風景に溶け込み、農村の暮らしとともに親しまれてきた。
- 俳句や詩に登場することも多い、風情ある鳥。
9. 保護と環境
- 生息環境である草原や農地の減少により、局地的に数が減っている。
- 環境省レッドリストでは一部地域で「準絶滅危惧」に指定。
- 草原や湿地の保全活動が、ノビタキの安定した生息に重要。
まとめ
ノビタキは、草原や農耕地で見られる小さな野鳥で、渡りの季節に全国で観察できます。黒い頭に橙色の胸を持つ夏羽のオスは美しく、草原に映える存在です。日本の自然や文化にも深く関わるノビタキは、今後も守り続けたい野鳥のひとつといえるでしょう。